2014年9月に独立してから、3年ちょっと。
「仕事がなかったらどうしよう・・」という不安も、当初はなきにしもあらずでしたが、景気が良い時期だったのも奏功してか、ご縁のなかでさまざまな仕事をさせてもらいました。
単品通販のCRMツール制作やBtoB集客のコンサル、WEBサイトの企画ディレクションにマーケ記事のライティング、変わったところでは採用サイトのSEO設計まで。
有難いことに「仕事に困る・・」ということはないまま、ただ「次の3年間をどう使っていこうか?」と考えたときに、「軸を定めたい!」と痛切に感じました。
「2020年までの3年間は、ファンドレイジング(=非営利団体の寄付等による資金調達)に注力しよう!」
今年の夏にそう心に決めたのですが、さっそくなし崩し的になりつつあるので(笑)、年末というのを機になぜ「そう考えたのか?」を言葉にしようと。
自分に言い聞かせるためにも(?)、まとめ直してみました。
理由1:必要としてもらえたから
3年間で、たくさんのNPOやNGOさん(20〜30くらい?)から、相談をいただきました。
僕は2011年から14年の3年間、あるNPO法人で広報・ファンドレイジングの責任者を務めさせてもらいました。
そこでは、被災地での教育活動の資金を主に確保するため、マーケティングを通じて寄付を集める、ということをやっていました。
「3年間で、寄付収入が8倍に」と字面にするとそれっぽい成果となり、インタビューなどではさも綺麗に語ってしまってましたが(汗)・・
内心では、「偶然がプラスに大きく左右したなぁ」と気づいていました。
・東日本大震災の後という時期に、「被災地の子ども支援」という活動の分かりやすさ
・団体が元々持っていた、組織文化やネットワーク
・システムやデータベース面での、強力なサポート
・代表の方のビジョナリーな言葉や、現場の生み出す熱etc
前職での実績に興味を持って相談いただく機会が多かったのですが、「同じことをやってくれ」と言われても、厳しいよね・・と正直引いてしまっていたところもありました。
自分で言うのもすみません、という感じでしたが、「再現性が、どこまであるのかな?」と。
でも、いくつかお手伝いをするなかで、これまで培ってきた方法論が機能するケースが少なからずあると分かってきました。
きちんと戦略を立てて、魂を込めてクリエイティブを作って、データがとれるよう整備してPDCAを回していく。
そうすれば、別の環境でも、ちゃんと結果はついてくるものなんだなと。
かつては思いもよらなかったほどの、大きな成果が出たこともありました。
(もちろん活動内容や団体規模などによって、成り立たない場合もありますが、そういった目利きも少しずつできるようになってきた。)
「良いことをしているけど、お金がない・・」という非営利団体は、たくさんいらっしゃいます。
特に、「オンラインから、支援者を獲得したい」「マンスリーサポーター(=継続寄付会員)を増やしたい」
そんなニーズが、世の中の変化もあってか、より強くなっているように感じました。
自分の専門性を、役に立ててもらう機会がある。
すばらしい活動の、助けになる。
またチャレンジしていきたい!と思いました。
理由2:ちゃんと生活できたから
「NPOがクライアント」というと、「食べていけるんですか?」という質問をよくいただきます。
気のおけない古くからの知人だと「大丈夫なの?」「お金になるの?」とストレートに聞かれることもあるし、マーケティング関係の方だと遠回しに「変わったことやってますね」「儲からなそう・・」という視線を感じてしまいます。(←自意識過剰だったらごめんなさい)
でも、3年間やって分かったのは、生業として「ちゃんと食べていける」ということでした。
(僕自身は、ビジネス分野での仕事もさせてもらっていますが)
NPO向けの仕事だと、かつては「ボランティア」や「大幅な値引き」が当たり前の感覚もあったかもしれませんが、ちゃんとした仕事として対価を払える(払う)団体が増えています。
僕自身も幸いなことに、(企業のクライアントより若干低くしてるかもですが)ちゃんとしたフィーをいただいて仕事ができています。
寄付というのは、現時点では万人がお金を使うような対象ではありません。
それでも日本の寄付市場の規模は、約7,556億円。(「寄付白書2017」より)
2009年の5,455億円からは、約140%で成長してきたみたいです。
マーケティングの力を使って、もっとたくさんの人がソーシャルグッドにお金を使ってもらうように働きかけていく。
成長市場のなかで、お金の流れがきちんと回るようになれば、この流れを加速できないかなと。
もちろん、寄付の多くは目的である社会的な事業にあてられるべきです。
支援を募る仕事にやりがいを覚えるのも、お金を集めた先にいる子どもたち(など受益者)の喜ぶ顔があるからです。
一方で、資金の100%を活動に投じてしまうと、翌年以降の収入を得るのが困難になるのもまた真実です。
(種もみの100%をその年に食べてしまうのと同じ)
収入の一部を、獲得のために再投資に回していく。
財務基盤となる収入を得られるよう、サポートをしていく。
その循環をつくっていき、自分以外の専門家にもサステナブルな状態で関わってもらえるような輪を作りたい!
規模をちゃんとスケールさせて、市場を広げていく一助になりたい!と考えるようになりました。
※「これ仕事にしていいんだっけ?」という、どこかでモヤモヤしていた気持ちがやっと整理できた、と言えるのかもしれません。
理由3:社会的に求められるから(そして父の死と娘の誕生)
3つ目ですが、日本という国でファンドレイジングがますます求められるようになる、という考えもより強くなったからです。
マクロなところでは、経済格差の拡大と教育・福祉・子育てなどで問題が噴出。
一方、政府が財政支出によって直接に介入するのは、ますます困難に・・
「新しい公共」論に代表されるように、NPO/NGOが低コスト・高インパクトな社会課題解決の担い手として期待されているのは、よく知られているところです。
僕自身、政治的な立場としては「小さな政府」論者です。
自由競争の推進は、日本が国際競争力を維持するために必至だし、結果として経済格差が拡大するのも仕方ないと考えています。
でも、「機会の平等」だけは保障されなくてはいけない。
(学生時代にアメリカに旅行に行ったのを機に、そう思うようになりました。)
特に子どもたちが、生まれ育った環境によって、可能性を奪われてしまうような社会にはしたくないなと。
僕自身は、とても恵まれた環境で小学校で塾に、そして中高と私立に通わせてもらいましたが、父はそうではなかったそうです。
僕の父は昭和20年に満州で生まれたのですが、戦争で父(=祖父)がシベリアに抑留され、そして亡くなりました。
本土に引き揚げてからも、母子家庭で育ったのもあり、貧しい子ども時代を過ごしたそうです。
教科書もおさがりを使ってしのいだこと、田舎で参考書とラジオ講座を頼りに受験勉強したこと、など小さな頃に聞かされたものでした。
幸いにして父は、国立大学に合格して(←その当時は、学費がむちゃくちゃ安かった)、大手企業に就職。
僕にもきちんとした教育を受けさせてもらったのですが、かつての父のような(あるいはもっと過酷な)環境にいる子もたくさんいます。
途上国のみならず、日本にも増えているし、放っておけば増える一途にあるのだなと。
昨年に父が、70歳で亡くなったということ。
そして僕自身が、一昨年に1児の父になったことも影響があったのかもしれません。
そんな問題の解決に加わりたい、と感じるようになりました。
理由4: 持続可能なモデルだから
4つ目ですが、↑のように考えても一人ではできないわけで、マーケティングの力を使ってできるのは、たくさんの方に仲間になってもらうことです。
NPOには、「マンスリーサポーター」といって、月1,000円からなど継続的に寄付をする会員制度があります。
このマンスリーサポーターを増やしたい、というご相談を数多くのNPOからいただいてきました。
さまざまな団体さんでデータを見てきて、驚いた&嬉しかったのは、本当にたくさんの方が続けてくださっている、ということ。
(一般的なビジネスの定期購入やサブスクリプションモデルと比べて、驚くほどの継続率!)
1,000円でも数年間、10年間と続けてくだされば、数万〜十数万円と大きな金額になります。
新規獲得が多少大変でも、収支構造としてちゃんと成り立ちやすいと分かってきました。
(マーケティング的に言うと、「LTVモデルが機能しやすい」とも言えます。)
「1人の100歩より、100人の1歩を」という、好きな言葉があります。
多額の寄付ができるような富裕な方は、日本にも多くはありません。
普通の人でも、たとえ1回1回では必ずしも高い金額でなくても、仲間になってもらう。
ご支援を続けてもらい、課題解決の道のりをご一緒してもらう。
そんな関係性を、もっと規模が大きく成り立たせられたら・・
(日本中の人口のうち、5%でもマンスリーサポーターになってもらえたら・・)
たくさんの幸せの輪が生まれるな、とワクワクしています。
理由5:キャリアとして可能性に満ちているから
最後は、マーケターとしてのキャリアにとって、大きな可能性に満ちているから。
「モノが売れない」と言われて久しい現代。
特に先進国で生活に余裕のある人々の間では、精神的な満足にお金を使うようになっている、とよく指摘されます。
そんな流れで注目されるのが、「利他的な行動によって、幸福度が上がる」という事実。
「自分のために何かを買う」より「誰かのためにプレゼントをあげる」方が、(それが見知らぬ人であっても)人間が幸せになりやすいことは、いくつかの心理学の実験によって知られています。
寄付は、利他的なお金の使い方の最たるもの。
そして、形がない消費の究極的な姿と言えるでしょう。
もちろん、目に見えるリターンがない分、通常の商品と比べて、「売る」のは難しいです。
でもそれは、ある意味、「商品開発」や「訴求の設計」に自由度が大きい、ということ。
マーケターとしては、チャレンジングである反面、工夫のしがいがあります。
ご支援いただいた方に、寄付の使い道や活動の成果、携わる人の想いetcを伝えていき、関係性を育んでいく。
そして、「誰かを応援する」幸せを実感してもらう。
そのために、ダイレクトマーケティング、特にCRMで培った技術を総動員していく。
そんなことができたら、素晴らしいなと思いますし、まだまだやりたいこと、できることがたくさんある!
うまくいったら、マーケターとしての力量や可能性も大きく広がる、と考えています。
(遅かれ早かれ、多くの商品が情緒的な価値を訴える方向にシフトしていくため)
最後に
と、ファンドレイジングという仕事に注力する5つの理由をまとめてみました。
日頃からぼんやり考えていたり、一部だけを人に話していたことを、これを機にザーッと洗い出したため、長文になってしまったこと、お許しくださいませ。
最後に注釈的に添えさせていただくと・・
・企業のお仕事もさせてもらっていますが、「やめます!」というわけではありません。ファンドレイザーとしての強みは、ビジネス分野のマーケティングにも携わっていることにもあると感じています。一方で、企業サイドとしては、マーケティングの定石が分かっている&異分野の発想が欲しい、というニーズを聞かせてもらったりも。絞らずによいのかとむにゃむにゃ悩んだりもしましたが、それならそれでGoogleの「20%ルール」のように、必要としてもらえる限り続けさせてもらえればと。
・「2020年までは」と書きましたが、それ以降にファンドレイジングの仕事をしない、というのでもありません。2020年以降に世の中は変わりそうだから、ホワイトスペースを残しておきたいのと、なんとなく期限を決めた方が、ガーッと頑張れるかなと思ったので。寄付と別の形でのソーシャルグッド(コーズ商品とか)や、アジアでのファンドレイジングへの広がりにも興味があります。
なんだかんだ偉そうに書きましたが、この分野にワクワクするのは、そこにいる人が魅力的というのもあるなーと、書き終わって気づきました。
NPOのスタッフの方々、支援企業の方々、協会や財団などの方々etc
みんな気持ちの良い方々ばかり。
(やっぱり目指しているものや活動が惹きつけて、スクリーニングするんだと思う)
そんな素晴らしい環境で仕事させてもらった2017年に感謝しつつ。。
2018年もここで書いた気持ちを忘れず、一歩ずつ歩いていきたいなぁと思います。